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Dr. 榎戸のイタリア取材:Milan Breast Cancer Conference

Milan Breast Cancer Conference
報告:榎戸 克年(聖路加国際病院/乳腺外科)

Milan Breast Cancer Conference がDr. Umbert Veronesi、Dr. Aron Goldhirschをチェアマンに、2009年6月17日から3日間にわたり、イタリア・ミラノにおいて開催された。 11回目を迎えたカンファレンスでは、breast cancerとchemoprevention、診断と手術、新たな放射線治療にフォーカスが当てられた。また、会期中にAnnals of OncologyよりSt Gallen International Expert Consensus 2009が発表され、スポットライトとして扱われた。

  
カンファレンス会場とチェアマンを務めたDr.Umberto Veronesi

Genetic counseling in 2009

アメリカにおけるgenetic counselingは、50歳以下で発症した症例全てが対象であり、BRCA遺伝子が陽性であった場合、60%の症例にprophylactic mastectomyが行われている。一方ヨーロッパでは、家族歴、既往歴などからGail modelを用いてリスクを算出し、カウンセリングが行われている。BACA陽性であった場合、まずはライフスタイルの改善、超音波、MRIを用いた画像検査、ductal lavage等を行い経過観察している。予防的手術を積極的に勧めることはなく、フランス、オーストリアなど20%前後である。唯一オランダがprophylactic mastectomyを67%に施行しているが、ヨーロッパでは患者とよく話し合ったうえで経過観察を行うのが、基本的な方針である。増殖マーカーKi-67を用いた経過観察が研究されており、今後の展開が期待される方法であるが、現時点ではその有用性が明らかではなく、症例を積み重ねる必要がある。

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Breast surgery

ヨーロッパの乳癌診療において、高額なMRIは広く普及しているとはいえないが、近年使用している施設は増加している。それに伴い、multicentric lesionの発見率が多くなり、乳房切除術もしくはnipple sparing mastectomyの割合が増加している。Dr. Umberto Veronesi らの施設では、1060例のnipple sparing mastectomy+乳頭乳輪への術中照射(16Gy)が行われており、その成績が発表された。1.3%の局所再発を認めたが、乳頭部の再発はなかった。合併症は乳頭壊死(4%)、感染に伴うプロステーシスの除去(4%)であった。

また、非触知病変に対するRadioguided surgical treatmentが紹介された。従来はワイヤーを用いて同定していた非触知病変であるが、Dr. Alberto Luiniらは、腫瘍内にアイソトープを注入し、術野でナビゲーターを用いて腫瘍の存在部位を同定するROLL法(radioguided occult lesion localization)を用いており、その成績を発表した。98.6%の症例において腫瘍が同定できたが、断端陽性症例が存在し、その点については検討の余地を残した。

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New perspectives of radiotherapy

Accelerated partial breast irradiation(APBI)

  • catheter based brachytherapy
  • MammoSite balloon device
  • Intraoperative radiotherapy(IORT)

Hypofractionation radiotherapy
に関する発表が行われた。

仕事をしている女性、育児年代、放射線治療施設から遠方の患者にとって、5〜6週間の通院は負担となる場合が多い。APBIは、照射期間が4-5日と従来の照射と比べて短期間に終了するため、その負担が軽くなるという利点がある。低リスク患者に対するAPBIは良好な局所コントロールと整容性が得られているが、血腫、感染などの合併症が報告されている。また切除した部分が小さくカテーテルを挿入できない症例もあるため、乳房が比較的小さな日本人では、患者の選択が必要と思われる。
IORTは従来通院で行っていた放射線治療を、術中に行う方法である。European institute of oncologyでは、21Gyの術中照射の臨床試験を開始し7年が経過したが、従来の方法と比較して生存率に差がない。この照射法の問題は、創部が大きくなること、病理結果が不明な時点で照射を行うため、治療後に断端陽性の結果が出る可能性があることである。そのため、治療対象となる患者の選択には注意が必要であるが、日本では、仕事が多忙で傷の大きさより仕事への早期復帰を希望する場合や遠方のため入院中に手術と放射線治療を終了したい場合には有用な方法と思われる。Dr A. Goldhirschは、この術中照射法は小さな腫瘍に対してはもはや妥当な方法であるとコメントしていた。
照射量・照射回数を減らしたHypofractionation scheduleの臨床試験(START trial)が英国で行われており、この試験で至適線量・分割方法を検証している。START-A trialでは50Gy/5週、42.9Gy/5週、39Gy/5週が比較されたが、39Gy/5週における局所再発率が高い結果となった。START-Bでは、50Gy/5週、40Gy/3週が比較され、40Gy/3週において、良好な局所コントロールと整容性が得られた。

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The Milan Breast Cancer Observatory: Innovation and care in the next 12 months

Participants: Alan S. Coates, Viviana Galimberti, Aron Goldhirsch, Roberto Orecchia, Virgilio Sacchini, Giuseppe Viale  Chair: Alberto Costa

それぞれのパネリストが次の12ヶ月間の展望について述べ、以下のようにまとめられた。

  • 多遺伝子解析をさらに取り入れ、化学療法の適応を検討する。
  • 腫瘍径の小さいものに対する術中照射は妥当である。
  • 放射線治療に関して、短期乳房照射を推進する。
  • 切除断端陰性を目指した新たなモダリティの開発(oncoplastic technique)
  • 予後予測、効果予測因子の更なる展開(新たなmolecular assay、遺伝子プロファイリング)


チェアマンのDr. Aron Goldhirsch

カンファレンス会期中に、以前留学していたEuropean Institute of Oncologyを訪問し、また他のヨーロッパ諸国の医師と話をすることができた。ヨーロッパにおいても腫瘍内科、腫瘍外科の分業化は進められているが、実際には日本のように曖昧な部分が多く存在している。日本と異なりヨーロッパの腫瘍内科の医師数は比較的多いが、医師の偏在や病院アクセスなど地域の実情や担当医を変えたくないという患者の希望により、婦人科医が化学療法を行っている主要国もある。遺伝カウンセリングの分野においても、ヨーロッパは急激な変化を避ける傾向にあるが、日本よりも早いタイミングで開始し、ゆっくりではあるが着実に進歩している印象を受ける。このようにヨーロッパが抱えている問題は日本と同様であるが、解決に向けた一歩はヨーロッパのほうが早く、今後見習うべき点は多いと思われる。

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